Being a merchandiser is the core of
the licensing business.
東映アニメーション株式会社
常務取締役 営業企画本部長
篠原 智士(しのはら さとし)氏
東映アニメーション株式会社
常務取締役 営業企画本部長
篠原 智士(しのはら さとし)氏
日本の特撮・アニメビジネスの最前線で、国内外の市場を横断してきた東映アニメーション 常務取締役 営業企画本部長の篠原 智士氏。東映と東映アニメーションという二つの現場を経験しながら、ライセンスビジネスを中心にコンテンツビジネス全体に携わってきた。「ライセンスビジネスとはマーケットをつくる仕事である」という篠原氏に、特撮・アニメの未来、そして日本のIPビジネスが直面する課題と可能性について聞いた。
「国際部が存在しない」組織構造と
グローバル展開を前提とした制作思想
――(編集部)篠原さんは東映に入社されてから長年にわたり実写作品の商品化を担当され、現在は東映アニメーションにいらっしゃるわけですが、会社としての共通点や相違点はありますか?
篠原 東映と東映アニメーションは兄弟会社ではありますが、会社が違う以上、オペレーションの細部には違いがあります。もっとも、私自身は東映以外のIPホルダー企業で業務をした経験がないので、これが業界全体のひな形なのかどうかは判断できません。ただ、東映と東映アニメーションの差異について言えば、根本的なスピリット――つまりベースとなる考え方については、大きな違和感はありませんでした。
東映アニメーションは、いわゆる一般的なアニメ制作会社とは少し異なる側面があります。もともと映画制作の流れを色濃く引き継いでいるため、スタッフ編成や制作の進め方が独特で、他社から移ってきた方が驚くことも少なくないと聞いています。私自身は東映からの移籍だったため、その点での違和感はあまりなかったのですが、ただ、一つだけ明確に違う点があります。それは「作品を作るときの出発点が、ドメスティックなのか、最初からワールドワイドなのか」という点です。
――それは実写とアニメの違いも大きいかもしれないですね。
篠原 私は東映での最後の3年間、映画の宣伝を担当していたこともあり、その違いはかなり衝撃的でした。東映でも、特撮作品を中心にアジア圏への展開や輸出は行っています。しかし、基本的にはまず日本市場を前提に作品を作り、その後どの国へ広げていくかを検討する、という流れになります。一方で、東映アニメーションでは、企画段階から「この作品はアメリカではどう展開するのか」「中国ではどうか」「フランスではどうか」ということを前提に制作が進められます。制作スケジュールも方針も、最初から海外展開を織り込んだ設計になっているのです。
――グローバルで市場規模を見るわけですね。
篠原 日本市場だけを前提にすれば、興行収入を見込み、そこから制作費やPR費を逆算していく、という計算になります。しかし、東映アニメーションでは、日本だけでなく、アメリカ、ヨーロッパ、アジアを含めたグローバルマーケット全体を見据え、そこで得られる市場規模を前提に投資額を設定します。
例えばとある作品で言えば、日本国内では直近で約25億円の興行収入でしたが、ワールドワイドでは約140億円規模になります。25億円市場に対してどれだけの制作費をかけるのか、140億円市場に対してどれだけかけられるのか――この違いは、作品クオリティや制作期間にも直結します。この考え方の違いが、私にとっては最も大きな違いでした。
――確かに東映アニメーションには「国際部」がないですね。
篠原 そうなんです。なぜなら、すべての部署が最初から海外マーケットを前提に動いているからです。
マーチャンダイジング部門は言語や文化、経済環境等も勘案しつつ各国市場を見据えた運営を行い、映像販売部門もはじめからワールドワイドで展開しています。加えて、海外子会社やサブブランチを持っていることも大きなポイントです。
一般的な企業では、海外展開をいわゆる「国際部」に集約することで、制作サイドの意図やそれぞれのカテゴリーにおける営業戦略の判断基準とズレが生じることがあります。しかし東映アニメーションでは、同じ部署が日本市場も海外市場も一貫して担当するため、判断軸がブレにくい。これが組織としての大きな強みだと感じています。
©尾田栄一郎/集英社・フジテレビ・東映アニメ-ション
©ABC-A・東映アニメーション
©ABC-A・東映アニメーション
国内外をまたぐ「兼務」によって
カントリーリスクと向き合ってきた
――篠原さんご自身は、国内のライセンス業務と国際部門を兼務されていた時期があったそうですね。
篠原 はい。日本のライセンス業務を長く担当し、後半は国際部門と兼務していました。この兼務によって、判断を行う人間が一人になる、という状況が生まれました。これが非常に大きかったと思っています。
国内専門、海外専門と分断されると、それぞれの事情は分かりますが、全体をトータルで見て最適化することが難しくなります。兼務していたことで、国内外の事情を同時に考えながら判断できた。それは大きなメリットでした。
――国によって作品に対する規制も異なると思いますので、ご苦労されたこともあったのではないですか?
篠原 海外特有の規制や文化的背景が、作品内容に影響を及ぼすこともありましたね。例えば、ある国では特定のモチーフが受け入れられにくい、というケースもありました。
実写作品では特に、宗教的・文化的な制約が直接的に表れることがあります。過去には、日本では問題なく成立していた設定が、海外では受け入れられないことがありました。そのため、急遽設定を変更した例もあります。そうした判断を現場にフィードバックできたのは、国内外を横断して見ていたからこそだと思います。
――いわゆるカントリーリスクですね。
篠原 海外展開を行う以上、必ずカントリーリスクは存在します。国によってリスクの種類も大きさも異なりますし、ある一つの発言や出来事によって、一気に状況が変わることもあります。
中国市場がその典型例ですが、かつては巨大なマーケットとして重要な位置を占めていました。しかし、政策や社会情勢ひとつで状況は一変します。こうしたリスクは、どれだけ経験しても完全に読めるものではありません。だからこそ、「何を経験してきたか」「何に触れてきたか」ということが、判断力として蓄積されていくのだと思います。
――海外展開という文脈で言うと、やはり『パワーレンジャー』は外せない話題だと思います。
篠原 そうですね。「パワーレンジャー」は、日本の特撮番組を海外展開するうえで、非常に画期的な事例でした。戦略的に練り上げられたというよりも、一人の非常に優秀なビジネスパーソンが考え出した手法が、結果としてフォーマット化された、という側面が強いと思います。
特撮番組で最もコストがかかるのは、変身後のアクションや巨大ロボ戦などのパートです。これらはそのまま日本版の映像を使用し、ドラマ部分だけを現地向けに撮り直す。そうすることで、制作費を大幅に圧縮しながら、新しいIPとして成立させることができました。
さらに、日本の特撮番組は毎週30分のエピソードを高いペースで制作しています。この制作スピードは、アメリカやハリウッドの制作サイクルとは決定的に異なります。この高速制作体制があったからこそ、この仕組みは機能したのです。
――当時、画期的な展開だと感じました。
篠原 ただ、最初からすべてがうまくいったわけではありません。初期の契約は、今振り返ると非常に不利な条件も含まれていました。後になって契約内容を見直し、正常化するまでには時間もかかりました。それでも結果としては大ヒットし、東映にとっても大きな収益をもたらしました。
不平等な契約からスタートしたとしても、IPを育てることで流れを変えていくことは可能だ、という実例でもあります。
©水木プロ・東映アニメーション
©本郷あきよし・フジテレビ・東映アニメーション
©本郷あきよし・フジテレビ・東映アニメーション
東映アニメーションの現在地と
海外ビジネスの課題
――2026 年決算期というタイミングでもありますが、東映アニメーションの業績はいかがですか?
篠原 直近の第3四半期決算を見る限り、業績は非常に好調です。場合によっては過去2 番目、あるいはそれ以上の収益になる可能性もあります。好調の最大の要因は、やはり海外マーケットの伸長です。もちろん日本市場も頑張っていますが、全体を引き上げているのは海外だと見ています。
特徴的なのは、2022年から2023年にかけて大型作品が集中したことです。『ドラゴンボール』『ONE PIECE FILM RED』『THE FIRST SLAM DUNK』など、世界的に大きな興行収入を記録した作品が続きました。その結果、この年は過去最高益となりました。ただ重要なのは、その翌年度です。大型作品が少ない年であっても、配信や商品展開などによって安定した収益を確保できている。これは、いわば「地力」がついた証拠だと思います。
突出したヒットがある年はどの企業にもありますが、そうでない年にどこまで数字を維持できるか。そこに本当の実力が表れます。東映アニメーションは、その段階に入ってきたと感じています。
――やはり海外ビジネス強化が実を結んでいるわけですね。
篠原 とはいえ、海外マーケットがすべて順調というわけではありません。国や地域によって、IPの浸透度には大きな差があります。例えばアメリカ市場では、『ONE PIECE』や『ドラゴンボール』の知名度はかなり高い。作品自体は知られていて、商品も売られています。しかし「IPとして根付いているか」という点では、まだまだ拡大できる余地はあると考えています。
日本であれば、キャラクターごとに明確な売り場が存在します。海外では、ポケモンやマーベル、ディズニーのような一部のIPを除いて、専用コーナーが存在しない場合が多い。存在しないものは売れませんから、まず「ある」状態を作ることが重要です。
その意味で、海外市場にはまだまだ伸びしろがあります。深掘りすべき地域もあれば、これから本格的に攻めていく地域もあります。
――地域ごとに異なる課題があるということですね。
篠原 例えば、アメリカは深掘りが必要な市場です。中南米は日本のIPに対する反応が非常に良いものの、マーケットとしてはまだ成熟しきっていません。ヨーロッパは国ごとの違いが大きく、一括りにはできません。そして、共通して立ちはだかるのが「言語」の問題です。字幕で対応できる地域もありますが、小さな子ども向けのコンテンツでは吹き替えが不可欠です。識字率の問題もあり、「字幕があれば大丈夫」という前提は、日本にいると見落としがちです。
吹き替えにはコストがかかりますし、言語ごとに異なる対応が必要になります。中南米ではスペイン語とポルトガル語、インドでは複数の公用語が存在する。英語だけでは対応できません。
インド市場は人口規模だけを見れば非常に魅力的ですが、実際にはひとつの国として攻略できる市場ではありません。ヨーロッパと同じく、地域ごとに個別戦略が必要だと考えています。
――最近では海外でアニメを製作して、それをグローバルに展開するようなことも行っているようですね。
篠原 社内では「地産地消モデル」という言葉を使っていますが、ある国で制作した作品を、そこだけで消費するのではなく、その国を発信基地として、世界へ展開していくモデルです。例えばフランスで作った作品をワールドワイドに展開する。中国や中東で作った作品を世界に届ける。必ずしも日本が起点である必要はありません。
作品によっては、日本市場をあえて外すという判断もあり得る。マーケットの規模やタイミングを考えれば、それが合理的な場合もあります。
©ぷちきゅあぱーとなーず
©葦原大介/集英社・テレビ朝日・東映アニメーション
「ライセンスビジネス」は
「マーケットを作る仕事」
――国内外含め、長きに渡って篠原さんは「ライセンスビジネス」に携わってきました。
篠原 正直に言うと、私は「ライセンスビジネス」という言葉があまり好きではありません。もっと言えば、「ライセンサー」「ライセンシー」「版権元」といった言い方も、ずっと違和感を持ってきました。
なぜかというと、「ライセンス業務」は許認可業務に陥りやすいからです。契約を管理し、可否を判断し、リスクを避ける。もちろんそれは必要な仕事ですが、それだけではマーケットは広がりません。
極端な話をすれば、ライセンスビジネスで一番トラブルが少ない方法は「全部断ること」です。でも、それではビジネスにならない。私が考えてきたのは、「マーケットを作る仕事」なんです。
そのために、どんな素材が必要か、どんな商品が成立するのか、どんな展開をすればお客様に届くのか――それを考えるのが仕事であって、「許可を出すこと」そのものが目的ではありません。
――おっしゃるとおりですね。同感です。
篠原 だから私は、「マーチャンダイザーであること」がライセンスビジネスの根幹だと思っています。マーチャンダイザーは、単に商品化の窓口ではありません。ゼロからマーケットを作る。どうすれば商品が売れるのか、どうすれば作品の価値が伝わるのかを考える立場です。
東映でも、名刺の英語表記には部署名に「マーチャンダイジング」という言葉が入っています。これは非常に重要なことだと思っています。ライセンスという言葉が前に出すぎると、「許認可業務」という印象が強くなり、結果としてIPの価値そのものに疑問符が付いてしまうことがあります。
メーカーさんやパートナーから見て、「この会社は一緒にマーケットを作ってくれる相手なのか」、それとも「ただ許可を出すだけの相手なのか」。この違いは、ビジネスの成否に直結します。
――確かに「許認可業務」中心のライセンサーもいます。
篠原 キャラクタービジネスの面白さは、うまく回ったときに権利者、商品をつくるメーカー、そしてお客さん、この三者すべてが幸せになれる点にあります。メーカーさんは商品が売れ、われわれはロイヤリティを得て、お客さんは作品やキャラクターを通じて楽しい体験を得る。これは完全なウィンウィンの関係です。
仕入れのビジネスでは、どうしても「どちらが得をするか」という構造になります。1円高く売れば、相手は1円損をする。しかしライセンスビジネスでは、全員が得をする構造を作ることができる。この点が、私がこの仕事を「幸せな仕事」だと感じる理由です。
――その考え方が、結果として長寿IPを生み出すことにつながっていると感じます。
篠原 そうなってくれたらいいな、という思いでやってきました。ただ、もちろんそれだけではありません。良い作品があり、良いデザインがあり、そのクオリティを支える制作体制があって初めて成立するものです。ただ、作品が良いだけでは、長くは続きません。どう育てるか、どう届けるか。そこにマーチャンダイジングやライセンスの考え方が深く関わってきます。
世の中には、「評判は良かったけれど、続かなかった作品」がたくさんあります。トータルとして何が足りなかったのか。そこを考え続けることが、この仕事の本質だと思っています。
――最後に、長年この業界に携わってきた立場から、現在の日本のIPビジネス全体について感じていることがあれば教えてください。
篠原 偉そうなことを言える立場ではありませんが、これまでお話ししてきたことの延長線上に、答えはあると思っています。
今、日本のコンテンツ産業は「成長産業」として期待されています。海外に出て外貨を稼げ、という声も強くなっています。その方向性自体は間違っていないと思います。ただ、掛け声だけで成立するほど甘い世界ではありません。フランスの助成金制度などを見ていると、正直うらやましく思うこともあります。「海外に出ろ」と言うのであれば、それを支える仕組みや資金も必要です。申請のためのフォーマットすら整っていない状態で「挑戦しろ」と言われても、現場は困ってしまいます。
リスクを取って挑戦するためには、それに見合った環境が必要です。
――確かにコンテンツ産業に対する国の期待は大きいですが、海外展開のお話をお聞きすると、課題は少なくないように感じます。
篠原 制作現場の負担も年々大きくなっています。求められるクオリティは上がり続け、制作費も膨らんでいます。一部の天才や、好きだからこそ頑張っている人たちに支えられて、かろうじて回っている部分もあります。
しかし、一企業としてその体制を長期的に維持するのは、正直かなり厳しい。テレビ局、配信プラットフォーム、制作会社、それぞれの役割やリスクの分担も、どこかで見直さなければならない時期に来ていると思います。
――そういう意味では転換点に来ているということですね。
篠原 配信プラットフォームが台頭するなかで、メディアの構造そのものが変わりつつあります。破格の条件を提示する配信事業者が現れる一方で、リスクを誰がどこまで負うのかという問題は、まだ整理されていません。
生中継やスポーツ中継など、特殊なノウハウが必要な分野では、従来のテレビ局の強みが引き続き存在します。しかしそれ以外の分野では、競争の土俵が変わってきています。今後2 ~ 3年で、業界全体の勢力図が大きく変わってもおかしくない。おっしゃるように転換点に差し掛かっていると感じています。
――そんな転換点のなかで、IPビジネスに対する期待は高まっています。
篠原 IPビジネスは、多額の資金と時間を必要とするビジネスです。一度の失敗が致命傷になるケースも少なくありません。だからこそ、「好きだから」「やりがいがあるから」だけでは続かない。構造として、持続可能でなければならない。業界全体でその覚悟を共有できなければ、本当に強いIPを育て続けることは難しくなると思います。
――本日は長時間にわたって、大変貴重なお話をありがとうございました。
(収録日・2026年3月18日 東映アニメーション株式会社 会議室)
篠原 智士(しのはら さとし)
1986年に東映株式会社入社。2010年に同社テレビ商品化権営業部長、2012年に同社執行役員、2014年に同社取締役 国際営業部長、2017年に同社コンテンツ事業部門担当、2018年に同社ビデオ営業部長、2019年に同社映画宣伝部長に就任。2022年6月に東映アニメーション株式会社の常務取締役 営業企画本部長に就任、現在に至る。
2026/06/16
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